TUDORオーバーホール完全ガイド!正規と民間の料金や頻度を解説

こんにちは。はらじゅく時計宝石修理研究所、店長の天野 一啓です。
近年、独自のヴィンテージライクなデザインと高いスペックで、時計愛好家から熱い視線を集めているTUDOR(チューダー)。かつては「チュードル」という呼び名で親しまれ、ロレックスの弟分という立ち位置でしたが、今や完全なマニュファクチュール(自社一貫生産)ブランドとして、本家ロレックスをも凌ぐ勢いで確固たる地位を築いていますね。
私の店舗でも修理のご相談をいただくことが非常に多いブランドの一つですが、長く使い続ける上で避けて通れないのが「メンテナンス(オーバーホール)」の問題です。特にチューダーの場合、製造された年代によって中身の機械が全く異なるため、対応が少々複雑なのはご存知でしょうか?
「そろそろオーバーホールの時期かな?」と思っても、一体どれくらいの費用がかかるのか、あるいは正規店(日本ロレックス)と民間の修理店ではどちらに出すべきか、迷ってしまうことも多いはずです。特に最近のモデルは特殊な自社製ムーブメントを搭載しているため、依頼先を間違えると「部品がないから修理できない」と断られてしまうケースも急増しています。
この記事では、皆様が大切にされているチューダーを将来にわたって守り抜くために、オーバーホールに関するあらゆる疑問を修理のプロ視点で徹底的に深掘りして解説していきます。
東京・渋谷エリアで修理をお考えなら、JR原宿駅から徒歩1分とアクセス抜群の「はらじゅく時計宝石修理研究所」にご相談ください。国家資格を持つ修理技能士が、あなたの愛用の時計を丁寧に診断し、最適なメンテナンスをご提案します。他店で断られた修理にも対応可能な場合がありますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事でわかること
- 正規サービスと民間修理店の具体的な料金差とメリット・デメリット
- 搭載ムーブメントによる「正しい依頼先」の選び方
- 10年以上メンテナンスを放置した場合に起こりうる「致命的な故障」のリスク
- 資産価値を守るためのアンティークモデルやクロノタイムの修理戦略
tudorのオーバーホールを依頼する前の基礎知識

チューダーの時計を長く愛用するためには、まずブランド特有の事情やメンテナンスの基本ルールを知っておくことが大切です。ロレックスとの密接な関係性や、ムーブメントの種類によって修理対応が大きく異なる点など、依頼前に押さえておくべき重要なポイントを整理しましょう。
チューダーの時計が持つ特性と魅力
チューダーの歴史は1926年、ロレックスの創始者であるハンス・ウィルスドルフによって始まりました。設立の目的は明確で、「ロレックスの技術と信頼性を備えつつ、より手の届きやすい価格の時計を市場に提供すること」でした。
この戦略を実現するために、チューダーは非常に合理的な手法を採用しました。高い防水性を誇る「オイスターケース」やねじ込み式リューズといった外装パーツはロレックスと共有し、一方でコストのかかる内部のムーブメントには、スイスの汎用ムーブメントメーカーであるETA(エタ)社製の機械を採用したのです。これにより、ロレックス譲りの堅牢さを持ちながらも、メンテナンスがしやすく維持費も抑えられるという、ユーザーにとって非常に魅力的な時計が生まれました。
しかし、2015年の「ノースフラッグ」発表以降、ブランドの方針は大きく転換します。ムーブメント製造会社「ケニッシ(Kenissi)」を設立し、完全自社製ムーブメントである「MTキャリバー」を開発・搭載し始めました。現在のチューダーは、70時間のロングパワーリザーブ、シリコン製ヒゲゼンマイによる耐磁性、そしてCOSC認定を超える精度基準など、最新技術を惜しみなく投入したハイスペックなツールウォッチへと進化しています。
推奨頻度と10年放置した際のリスク
機械式時計であるチューダーのオーバーホール推奨頻度は、一般的に3年から5年に一度と言われています。中には「もっと長くても大丈夫」という意見もありますが、修理現場にいる私としては、このサイクルを守ることが結果的に最も安上がりな維持方法だと断言できます。
なぜ3〜5年なのか?技術的な理由
時計の内部には、数多くの歯車やレバーが噛み合って動いており、それぞれの接触部分には専用の潤滑油が注されています。このオイルは、約3〜4年で経年劣化を起こします。
- 揮発と拡散: オイルが乾いて減ってしまったり、本来あるべき場所から流れてしまったりします。
- 酸化と重合: 空気中の酸素と反応して、サラサラだったオイルがドロドロの粘着質に変化します。
「動いているから大丈夫」と10年近くメンテナンスをせずに使い続けている方もいらっしゃいますが、これは「オイル切れのエンジンで車を走らせている」のと同じで、非常に危険な状態です。油が切れた状態で金属部品同士が高速で擦れ合うと、摩擦熱でパーツが焼き付いたり、削れた金属粉が研磨剤のように他の部品を傷つけたりしてしまいます。
- 内部パーツのサビ: ネジ一本が錆びるだけで、分解時に折れ込んでしまい、高額な修理が必要になります。
- 文字盤の腐食: 湿気は文字盤の塗装を浮かせ、シミや変色の原因となります。これは一度なると元には戻せません。
長期間メンテナンスを怠った際のリスクについては、以下の記事でも実際の写真付きで詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
10年間オーバーホールしなかった時計はどうなってしまうのか?
日本ロレックスでのメンテナンス対応
ロレックスの厳格な基準でトレーニングを受けた技術者が、専用の設備と純正工具を用いてメンテナンスを行うため、品質に対する安心感は他ブランドを圧倒しています。
正規サービスのメリット:国際保証
正規オーバーホール(コンプリートサービス)を依頼した場合、完了後には「2年間の国際サービス保証」が付帯します。これは単なる修理箇所の保証ではなく、時計全体の機能に対する保証です。次回オーバーホールまでの期間の約半分を保証下で過ごせるというのは、正規ならではの大きな強みでしょう。
正規サービスの注意点:価格とポリッシュ
一方で、デメリットも存在します。近年は世界的な人件費や材料費の高騰、そして円安の影響もあり、正規サービスの料金は年々上昇傾向にあります。また、彼らのポリシーは「時計を新品の状態に戻すこと」にあるため、ケースの傷消し(ポリッシュ)で角が丸くなってしまったり、ヴィンテージの味が出た部品を強制的に新しいものへ交換されたりと、コレクターが好む「オリジナリティの維持」とは相容れない場合があります。
他店で修理できないと断られる理由
最近、民間の修理店に現行のチューダーを持ち込んでも「うちでは修理できない」と断られるケースが増えています。
もし部品交換が必要な故障が見つかった場合、純正パーツを入手できない民間修理店では手詰まりになってしまいます。
部品供給の問題や断られる理由については、ロレックスの事例が非常に参考になります。
東京・渋谷エリアで修理をお考えなら、JR原宿駅から徒歩1分とアクセス抜群の「はらじゅく時計宝石修理研究所」にご相談ください。国家資格を持つ修理技能士が、あなたの愛用の時計を丁寧に診断し、最適なメンテナンスをご提案します。他店で断られた修理にも対応可能な場合がありますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
tudorのオーバーホール料金相場と技術情報

ここでは、実際にオーバーホールを依頼する際に最も気になる「お金」と「時間」の話、そしてマニアックですが重要な技術的トピックについて具体的に見ていきましょう。正規と民間ではどれくらいの差があるのでしょうか。
正規料金と民間ショップの料金比較
2025年現在の市場動向を踏まえた、おおよその料金相場を比較してみました。モデルや状態によって変動するため、あくまで目安として捉えてください。
| モデルタイプ | 正規サービス(日本ロレックス) | 民間修理専門店(目安) |
|---|---|---|
| 3針モデル(プリンス、旧ブラックベイ79220等) | ¥70,000 〜 | ¥40,000 〜 |
| 3針モデル(現行ブラックベイ79230、ペラゴス等) | ¥88,500 〜 | 対応不可の店舗が多い |
| クロノグラフ(クロノタイム、ブラックベイクロノ) | ¥95,000 〜 | ¥55,000 〜 |
| 追加部品代(リューズ、チューブ、バネ棒等) | 要見積もり ※定期交換部品として必須になることが多い |
要見積もり ※壊れていなければ交換なし |
ご覧の通り、基本技術料だけでも民間ショップの方が50%〜60%ほど安く設定されていることが一般的です。しかし、実際の請求額の差はもっと大きくなります。
正規サービスの場合、見積もりの段階でリューズ、チューブ、プッシャー、バネ棒などが「定期交換部品」としてリストアップされることが多く、これらは基本的に拒否できません。結果として、3針モデルでも総額が6万円〜9万円、クロノグラフでは15万円近くになることも珍しくありません。コストを抑えて賢く維持したい場合は、やはり民間修理店のメリットが大きいです。
依頼から完了までの期間と納期の目安
料金と同じく気になるのが「どれくらいで戻ってくるか」ですよね。毎日使う相棒が手元にない時間は、できるだけ短くしたいものです。
- 正規サービス(日本ロレックス):通常は2ヶ月〜2.5ヶ月程度かかります。もし国内に交換用ムーブメントや部品の在庫がなく、スイス本国からの取り寄せが必要になった場合、6ヶ月以上かかるケースもあります。
- 民間修理専門店:通常は4週間〜6週間程度で完了します。私たちのような自社工房を持つ店舗であれば、お急ぎ対応ができる場合もあり、スピード感においては圧倒的に有利です。
ムーブメント載せ替え問題の真実
最近のチューダー正規修理における最大の特徴にして、ファンの間で議論を呼んでいるのが「ムーブメントのアッセンブリー交換(載せ替え)」です。
これは、持ち込まれた時計のムーブメントを職人が分解・洗浄して組み直すのではなく、工場ですでに整備済み(リコンディション)、あるいは新品のムーブメントユニットと「丸ごと交換してしまう」という対応です。特に最新のマニュファクチュールキャリバー(MT系)でこの対応が標準化されつつあります。
ユーザーとしては「新品同様の機械になるから嬉しい」と感じる方もいれば、「愛用してきた時計の中身が別物に変わってしまうのは寂しい」「自分の時計を直して使い続けたい」と感じる方もいるでしょう。これは現代の工業製品としての効率化と、趣味の道具としての愛着がぶつかり合う部分ですが、現行チューダーを正規に出す以上、この方針は受け入れざるを得ません。
クロノタイムオーバーホールの注意点
チューダーの中でも特に人気が高く、価格高騰中のヴィンテージモデル「クロノタイム(Chrono Time / Tiger)」。このモデルのオーバーホールには、資産価値を左右する特別な注意が必要です。
クロノタイムは「Valjoux(バルジュー)7750」という、クロノグラフの名機とも呼ばれる汎用ムーブメントを使用しているため、民間修理店でも問題なく、かつ高品質な整備が可能です。むしろ、正規店に出すことによる「価値の毀損」にこそ注意しなければなりません。
正規で起こりうる「改悪」リスク
正規サービスでは「機能回復」が最優先されます。そのため、経年変化で良い味が出ているトリチウム夜光の針や文字盤を、光るルミノバ夜光の新品パーツに強制交換されてしまうことがあります。また、王冠マークが入ったロレックス製リューズも、盾マークのチューダー現行リューズに交換される可能性があります。
実用品としては綺麗になりますが、ヴィンテージ市場では「オールニュー(部品が全て新しい状態)」よりも「オリジナルの状態」が高い評価を得るため、これによって数十万円単位で価値が下がってしまうこともあるのです。
「外装や文字盤はそのまま残したい」というこだわりのある方は、融通の利く民間修理専門店へ依頼し、「部品交換は必ず事前に相談してほしい」「針や文字盤は交換しないでほしい」と明確に伝えるのがベストな戦略です。
tudorのオーバーホールは専門店へ
ここまで、チューダーのオーバーホールに関する複雑な事情と対策をお伝えしてきました。最後に、今回の重要ポイントをまとめます。
- ルールは「5年」: 推奨頻度は3〜5年。不具合がなくてもパッキン交換のために出すことが、結果として安上がり。
- ETA機は「民間」へ: 旧モデルやクロノタイムは、「民間修理店」が最適。ヴィンテージの価値も守れる。
- MT機は「正規」へ: 現行の自社ムーブメントモデルは、部品供給の壁があるため「正規サービス」で安心を買うべき。
- 「載せ替え」を知っておく: 正規ではムーブメント交換や外装パーツの強制交換があることを理解して依頼する。
大切な時計を長く使い続けるためには、その時計の状態やモデルに合った「主治医」を見つけることが何より重要です。「私の時計はどっちのムーブメントだろう?」「この状態だといくらかかるかな?」など、少しでも迷うことがあれば、ぜひ私たちにご相談ください。
はらじゅく時計宝石修理研究所では、経験豊富な技術者がお客様の時計を診断し、最適なメンテナンスプランをご提案いたします。特にETA搭載モデルのオーバーホールや、新品同様の輝きを取り戻す外装仕上げには自信があります。
東京・渋谷エリアで修理をお考えなら、JR原宿駅から徒歩1分とアクセス抜群の「はらじゅく時計宝石修理研究所」にご相談ください。国家資格を持つ修理技能士が、あなたの愛用の時計を丁寧に診断し、最適なメンテナンスをご提案します。他店で断られた修理にも対応可能な場合がありますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
