ユニバーサルジュネーブのオーバーホール|料金と断られた時の対処法

こんにちは。はらじゅく時計宝石修理研究所、店長の天野 一啓です。
「ユニバーサルジュネーブの時計を修理したいけれど、どこに頼めばいいかわからない」「地元の時計屋さんで断られてしまった」……そんなお悩みをお持ちではありませんか?
ユニバーサルジュネーブ(Universal Genève)は、ポールルーターやトリコンパックスに代表されるように、時計好きなら誰もが憧れる歴史的な名門ブランドです。しかし、その特殊な内部構造や部品の希少性から、修理の難易度が極めて高いことでも知られています。大切な時計だからこそ、間違った業者に預けて取り返しのつかないことにはしたくないですよね。
この記事では、なぜこのブランドの修理が難しいのかという技術的な背景から、失敗しない修理業者の選び方、そして料金相場まで、私の現場での経験をもとに徹底的に解説します。
東京・渋谷エリアで修理をお考えなら、JR原宿駅から徒歩1分とアクセス抜群の「はらじゅく時計宝石修理研究所」にご相談ください。国家資格を持つ修理技能士が、あなたの愛用の時計を丁寧に診断し、最適なメンテナンスをご提案します。他店で断られた修理にも対応可能な場合がありますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事でわかること
- ユニバーサルジュネーブの修理が他店で断られやすい技術的な理由
- メーカー修理と民間修理専門店の料金や納期の具体的な違い
- マイクローターやトリコンパックスなど特殊モデルの注意点
- 部品がない状態からでも修理を可能にする「別作」という選択肢
ユニバーサル ジュネーブのオーバーホールが難しい理由

ユニバーサルジュネーブは、ジェラルド・ジェンタのデザインや独自のムーブメント開発で時計史に名を残していますが、修理を受ける技術者泣かせのブランドでもあります。なぜ多くの修理店がこのブランドのオーバーホールを敬遠するのか、その構造的な理由と背景について、少し専門的な視点も交えながら詳しく解説していきます。
マイクローター機構の構造的弱点
ユニバーサルジュネーブを語る上で欠かせないのが、1955年に特許を取得した革新的な自動巻き機構「マイクローター(Microtor)」です。一般的な自動巻き時計は、ムーブメント全体を覆うような大きなセンターローターが回転してゼンマイを巻き上げますが、マイクローターはムーブメントの厚みの中に小さなローターを埋め込むことで、劇的な薄型化を実現しました。
なぜ「軸」が摩耗しやすいのか?
この美しい構造には、メンテナンス上の大きな課題があります。物理の法則として、ローターが小さく軽くなると、ゼンマイを巻き上げるための回転エネルギー(トルク)が不足しがちになります。そこで、マイクローターは回転効率を上げるために高速回転する必要があるのですが、その結果、ローターを支える細い軸(Axle)やベアリングに極度の負荷がかかり続けてしまうのです。
ここが最大の注意点:ローター傷
メンテナンスを怠って油切れの状態が続くと、摩耗したローターの軸がガタつき始めます。すると、回転するたびにローター本体が裏蓋やムーブメントの受け板(ブリッジ)に接触してしまいます。時計を振った時に「ガリガリ」「シャー」という擦れるような異音がする場合、すでに内部で金属が削れている可能性が高いです。これを私たちは「ローター傷(Rotor Scars)」と呼びます。削れて発生した微細な金属粉が機械全体に回ると、歯車や脱進機を傷つけ、致命的な故障につながります。
特に「ポールルーター」などに搭載されたCal.215やCal.218といった初期のキャリバーは、この軸の摩耗が不具合原因の多くを占めます。定期的なオーバーホールを行わないことは、時計の寿命を縮める行為そのものなのです。
オーバーホールを長期間放置した場合のリスクについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
10年間オーバーホールしなかった時計はどうなってしまうのか?
トリコンパックスの複雑な修復
「クロノグラフの御三家」としての名声を不動のものにした名機、「トリコンパックス(Tri-Compax)」をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。この時計は、「クロノグラフ」「トリプルカレンダー(月・日・曜日)」「ムーンフェイズ(月齢)」という3つの複雑機構を1つの時計に統合した、まさに機械式時計の芸術品です。
湿気とサビが引き起こす連鎖故障
しかし、その複雑さゆえに修理は困難を極めます。特に注意が必要なのが、文字盤の裏側に配置されたカレンダー機構(裏回り)です。ここには微細なレバーやバネが何層にも重なっており、構造上、湿気によるサビが発生しやすい箇所でもあります。
一度サビが発生して部品同士が固着してしまうと、カレンダーを送る操作をした際に無理な力がかかり、貴重なレバーやバネが「パキッ」と折れてしまうことがあります。これらの部品は当然もう生産されていないため、非常に深刻な事態となります。
技術的な補足:エキセントリックネジの調整
トリコンパックスの修理には、部品交換だけでなく、クロノグラフの動作を制御する「エキセントリックネジ」と呼ばれる偏心ネジを、1/100mm単位で回して調整する高度な技術が求められます。針飛びやリセットずれを防ぐこの調整は、汎用的なムーブメント(ETA7750など)の修理とは次元が異なるため、経験豊富な職人でなければ手を付けることさえ難しいのが現状です。
修理を断られる主な原因とは
「地元の時計屋さんに持ち込んだけど、古いから無理だと断られてしまった」というご相談を非常によくいただきます。その最大の理由は、技術不足ではなく「交換部品が入手できないから」です。
時計メーカーには、生産終了後一定期間部品を保有する義務がありますが、ユニバーサルジュネーブのヴィンテージモデルは、その期間(通常10年〜20年程度)を遥かに過ぎています。特に1950年代から70年代のモデルに関しては、メーカーであっても純正部品の在庫が枯渇しているケースが多々あります。
修理店としての本音を言えば、「分解してみたものの、内部で重要部品が破損していて交換もできず、元に戻すこともできなくなってお客様にお返しできなくなる」というリスクを最も恐れます。そのため、安全策として受付そのものを断らざるを得ないのです。
ヴィンテージ市場での再評価
修理が難しいという側面がある一方で、ユニバーサルジュネーブの市場価値は近年、世界的に急上昇しています。特に天才時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタが23歳でデザインしたと言われる「ポールルーター」や、複雑時計の「トリコンパックス」は、オークションハウスでも高値で取引されるようになっています。
ブライトリングによる買収の影響
さらに大きなニュースとして、2023年12月にスイスの高級時計ブランド「ブライトリング(Breitling)」がユニバーサルジュネーブを買収し、ブランドを再始動させると発表しました。これは、単にブランドが存続するというだけでなく、過去のアーカイブ(歴史的モデル)にもスポットライトが当たり、資産価値がさらに高まることを示唆しています。
ブランドが復活することで将来的な部品供給の可能性もゼロではありませんが、現状ではまだ不透明です。だからこそ、今のうちにしっかりとメンテナンスを行い、動く良いコンディションで保存しておくことが、資産価値を守る上でも非常に重要かなと思います。
部品枯渇と別作技術の必要性
では、メーカーにも部品がない時計は、もう二度と直せないのでしょうか? 答えは「NO」です。純正部品が手に入らない場合でも、高度な技術力を持つ修理工房であれば、「部品の別作(新規作成)」によって時計を蘇らせることができます。
これは、時計修理の最終手段とも言える技術です。例えば、摩耗して痩せ細ってしまったマイクローターの軸や、折れてしまった天真(テンプの芯)などを、「旋盤(せんばん)」と呼ばれる精密工作機械を使って、金属の棒から1/100mm単位で削り出し、まったく同じ形状の部品を1から作成します。
合わせゼンマイという選択肢
また、動力源である「ゼンマイ」が切れてしまった場合も同様です。純正品がなくても、現代の高性能な素材(ニヴァフレックスなど)の中から、厚み・幅・長さが適合するものを選定して調整する「合わせゼンマイ」という手法で対応します。現代の素材は品質が良いため、場合によっては当時の純正品よりも持続時間や精度が向上することさえあります。
ユニバーサルジュネーブのオーバーホールにおいては、単に分解掃除ができるだけでなく、こうした「無い部品を作れる技術(別作技術)」を持っているかどうかが、依頼先選びの決定的なポイントになります。
東京・渋谷エリアで修理をお考えなら、JR原宿駅から徒歩1分とアクセス抜群の「はらじゅく時計宝石修理研究所」にご相談ください。国家資格を持つ修理技能士が、あなたの愛用の時計を丁寧に診断し、最適なメンテナンスをご提案します。他店で断られた修理にも対応可能な場合がありますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
ユニバーサル ジュネーブのオーバーホール依頼先の選び方

ユニバーサルジュネーブのような特殊な時計を修理に出す際、どこに依頼すれば良いのか迷ってしまいますよね。近所の時計屋さんでいいのか、それとも百貨店に行くべきなのか。ここでは、正規サービスと民間修理専門店の違いや、料金相場、そして信頼できるお店の見極め方について、プロの視点でアドバイスします。
どこでメンテナンスを頼むべきか
修理の依頼先は、大きく分けて2つの選択肢があります。一つは、長年日本におけるユニバーサルジュネーブの輸入正規サービス窓口。もう一つは、私たちのような民間の「時計修理専門店」です。
正規サービスの特徴
正規サービスの最大のメリットは、もし在庫があれば「純正部品」を使って修理してもらえるという安心感です。時計のオリジナル性を厳密に維持したい場合は、まずこちらに問い合わせるのが第一選択肢になるでしょう。ただし、前述の通り部品在庫がないヴィンテージモデルは「修理不可」として返却されるケースが増えており、納期も見積もりだけで数週間かかるなど、時間がかかる傾向があります。
民間修理専門店の特徴
一方、民間修理専門店のメリットは、柔軟な対応力と料金の安さです。純正部品がない場合でも、先ほど紹介した「別作対応」や、状態の良いジャンク品から部品を移植する「ドナー対応」など、あらゆる手段を尽くして時計を直そうと試みてくれます。
メーカーと民間修理店の料金比較
実際にどれくらいの費用がかかるのか、一般的な相場を表にまとめました。あくまで目安ですが、予算を立てる際の参考にしてみてください。
| モデル・種別 | 民間修理店(目安) | メーカー正規(目安) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 手巻きモデル | 57,500円〜 | 78,500円〜 | ゼンマイ切れは別途部品代が発生 |
| 自動巻き(ポールルーター等) | 57,500円〜 | 79,500円〜 | 軸摩耗時は追加費用が発生しやすい |
| クロノグラフ(コンパックス等) | 68,500円〜 | 95,000円〜 | 複雑機構のため料金変動が大きい |
| クォーツモデル | 39,800円〜 | 63,000円〜 | 回路故障時は修理不可の場合もあり |
民間修理店の方が、基本料金ベースで20%〜40%ほど安く設定されていることがわかります。ただし、これはあくまで「オーバーホール基本料金」です。部品の別作が必要な場合は、ここに技術料が加算される形になりますので、必ず見積もりを取るようにしましょう。
時計のオーバーホール料金が決まる仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
時計のオーバーホールの値段・相場はどれくらいか?メーカーごとに解説
東京で信頼できる修理店を探す
東京には数多くの時計修理店がありますが、ユニバーサルジュネーブのようなヴィンテージウォッチを得意とするお店は限られています。ウェブサイトを見ただけでは判断が難しい場合、以下のようなポイントをチェックしてみてください。
優良店を見極めるチェックリスト
- 設備の公開:ウェブサイトやブログに「旋盤」や「ポンス台」などの工作機械の写真が掲載されているか。
- 明確な表記:「部品別作」や「アンティーク対応可能」と明記しているか。
- 修理事例:実際にユニバーサルジュネーブの修理事例や、内部の写真をブログ等で公開しているか。
- リスク説明:見積もりの段階で、「直せない可能性」や「アンティーク特有のリスク」についても正直に説明してくれるか。
特に重要なのが最後の「リスク説明」です。「絶対に直せます」と安請け合いするお店よりも、「開けてみないと分からない部分がある」と誠実に伝えてくれるお店の方が、結果的にトラブルが少なく信頼できるかなと私は思います。
納期と保証期間の確認ポイント
依頼する前に必ず確認しておきたいのが、修理にかかる期間(納期)と、修理後の保証内容です。
メーカー修理の場合、見積もりの回答だけで約4週間、修理完了まで3ヶ月以上かかることが一般的です。民間の修理専門店であれば、部品在庫があれば4〜8週間程度で完了することもありますが、部品作成が必要な難修理の場合は2ヶ月以上かかることも珍しくありません。急ぎの場合は事前に相談しましょう。
また、修理後の保証期間も大切です。通常、オーバーホール後は6ヶ月〜1年の動作保証がつきます。しかし、アンティーク時計の場合は「非防水としての扱いになる」「日差(精度の誤差)は現行品ほど出ない」といった免責事項が付くことがほとんどです。これらを事前にしっかりと説明してくれて、保証書を発行してくれるお店を選ぶことが大切です。
ユニバーサル ジュネーブのオーバーホールまとめ
- ユニバーサルジュネーブはマイクローターや複雑機構のため、修理には高い技術力が必要
- 部品が枯渇しているため、メーカーでも修理を断られるケースが増えている
- 修理店選びでは「部品の別作(作成)」ができる設備と技術があるかが最重要ポイント
- 資産価値を守るためにも、異音がする前や動かなくなる前の早めのメンテナンスが吉
ユニバーサルジュネーブは、適切に手を入れれば、これから先も何十年と使い続けることができる素晴らしい時計です。ぜひ信頼できるパートナーを見つけて、その美しい時を刻み続けてくださいね。
東京・渋谷エリアで修理をお考えなら、JR原宿駅から徒歩1分とアクセス抜群の「はらじゅく時計宝石修理研究所」にご相談ください。国家資格を持つ修理技能士が、あなたの愛用の時計を丁寧に診断し、最適なメンテナンスをご提案します。他店で断られた修理にも対応可能な場合がありますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
